2024年2月13日から20日の8日間にわたり、日本全国から様々な分野を専攻する大学生10名がフィジー共和国に派遣されました。
JENESYS2022フェーズ2派遣は「島しょ国の抱える課題とその取り組み、人々の暮らし」 をテーマに、フィジー国内のスバ市、ナンディ市などで、日本がフィジーで取り組んでいるODA事業視察、南太平洋大学との学校交流、フィジー国内で活躍するNGOなどを訪問し、様々な角度から取り組み、学びました。
最初の訪問地のフィジー共和国の首都スバ市はビティレブ島南東沿岸に位置し、政治、経済、文化の中心地でもあるフィジー最大の都市です。
スバ市では在フィジー日本大使館を表敬訪問させて頂きました。道井緑一郎大使から日本とフィジーおよび太平洋島しょ国の官民における連携や国際社会において、日本の真摯かつ誠実な外交姿勢が認められていること、世界に関心を持ち、国際社会の中で日本を相対的に見る視点を養うことの重要性など、これからフィジーを体験する派遣学生たちにとって日本とフィジーと太平洋島しょ国を見つめ直すきっかけとなるお話を頂きました。
▲在フィジー日本大使館表敬
スバ市ではJICAフィジー事務所を訪問し、JICAがフィジーで取り組んでいる日本のODA事業の講義を受けました。JICAフィジー岩谷職員から「外国人から見るとゴミに見えても、現地の人にとっては、護岸を守るための有効な資源である場合もあります」と現場ならではの視点から講義を受けました。また、実施中の太平洋島しょ国のSDG14「海の豊かさを守ろう」プロジェクトから水野専門家からフィジーの漁業資源の保全管理、養殖水産加工に関する取り組みの説明を受けました。講話では海洋生物を専攻している学生を中心に積極的な質問が飛び交う場となりました。
▲JICAフィジー事務所でのODA講話
また、フィジーで活動するJICA海外協力隊員である永原朱隊員の配属先と活動現場にも訪問できました。永原隊員の活動先のひとつであるNaila村を訪問した際には、入村するために必要となるセブセブと儀式を執り行ってもらいました。儀式ではカバと呼ばれる大洋州の植物の根を乾燥させ、粉末にした粉から作られた飲み物が振舞われました。儀式が終わると村の代表者から「あなたたちはもう兄弟です」との言葉を頂き、歓迎され、永原隊員が支援している村の販売所を視察しました。村の女性たちが作ったお菓子や手工芸品は日本の学生にも大変好評でした。訪問時間はあっという間に過ぎ去り、学生も村人たちも涙を呑んでのお別れとなりました。学生たちから「今夜はここに泊まりたい」との声が多く上がる記憶に残る訪問となりました。
▲永原隊員からの取り組みの説明
▲村人の作ったお菓子を購入。「美味しい!!」
▲村人の作った手工芸品をお土産に品定め中
▲カバの粉を見せてもらいました。
▲村の人たちとダンス
このODA視察では学生たちから「外部機関が事業を主導するのではなく、現地の方が自ら抱えている課題を話し合い、事業計画を立案し、実行するというプロセスに感銘を受けた。」「物資の供給や輸出といった一時的な物的支援ではなく、アイデアや概念を共有し、現地の人が主体となって自身の状況に適した方法で共に活動を具体化していく、協力事業の一つのモデルを見聞することができた。」「目の前にいる人々と真摯に向き合う永原隊員の姿と、売店の今後について熱心の話をする村の女性たちの姿、そして「Emi(永原隊員)が来てくれてから本当にこの村はどんどん良くなっている、とても感謝している」と話す村の人々の声は私の将来の夢への思いをより強固なものにさせてくれた。「永原隊員の支援が必要な“誰か”ではなく目の前にいる“仲間”として向き合う姿は、国際協力の在り方を改めて考えるきっかけとなった。」と感想があり、とても充実した視察となりました。
学生の中にはフィジーの抱える廃棄物課題に対して「自分がフィジー滞在中に出したごみはスーツケースの中に入れて日本に持って帰って来ることにした。」と環境問題への取り組みを実践する姿もあり、多くの学びを得る視察となりました。
▲JICAフィジー事務所にて
▲Naila村にて
フィジー派遣3日目は、日本の派遣学生と南太平洋大学の学生双方が大変、楽しみにしていた学校交流プログラムです。南太平洋大学で迎えてくれた学生たちは全員JENESYS招へい事業で訪日経験がある学生たちでした。本プログラムでは、日本の学生たちが準備してきた気候変動、沖縄の自然環境と保護活動、自然災害の事例研究と防災道具を発表しました。双方の学生を混ぜ合わせた小グループを作り、積極的な意見交換を行いました。
国土沈下が危惧されているツバル出身の学生から「気候変動、自然環境について語り、より多くの人に実情を知ってもらうことが今できることです」と危機に直面している生の声を聴くことができ、防災対策では「もしSuvaにいるときに水害が起きたらどこに避難するか」という課題を設定し、グループに分かれて避難経路や避難時の持ち物として日本から持参した簡易防災グッズをサンプルにして、非常時には何が必要かを話し合いました。
▲日本の学生から意見交換の発表
▲テーマごとにワークショップ
意見交換会の後は、日本の学生が行った日本文化紹介では、英語版のかるた、だるま落とし、習字、和紙を使ったしおり作成と折り紙を行い、南太平洋大学の学生たちから、「この日本文化紹介にはもっと時間が必要よ」と強い要望がでるほど大好評でした。
▲日本文化紹介
▲自分の名前を日本語に当て字にしました
南太平洋大学の学生たちからは、各学生の出身国の民族衣装、民族ダンス、太平洋島嶼国の民族模様の作成を異文化交流として体験させてもらいました。南太平洋大学スバキャンパスには、様々な大洋島しょ国から留学にきており、日本の学生たちはフィジーだけではない大洋州の国々の伝統や文化風習に触れることができました。
▲太平洋島しょ国の伝統舞踊を体験。最後はみんなの前で披露しました。
▲南太平洋大学の学生との一枚
南太平洋大学での学校交流後、フィジー国立博物館とスバ市野菜市場を視察しました。
博物館では釘を使わない伝統的な造船技術や海でとれる物を使った装飾品や木を彫って作られた道具や装飾品が多く、自然と共存してきたことを学びました。
野菜市場では、一部ニュージーランドからの輸入品なども売られていたが、ほとんどは地元の物で、庶民的な価格帯でした。学生から事前学習した地産地消の概念と繋げることができたと市井の生活を知る貴重な視察となりました。
▲フィジー国立博物館を視察
▲スバ市の野菜市場を視察
フィジー派遣折り返しとなる4日目にはスバ市からナンディ市に移動し、その途中にあるオイスカ・インターナショナルが取り組んでいるマングローブ植林と有機農業の取り組みを視察しました。マングローブ植林サイトでは日本の学生たちもマングローブ植林を体験し、オイスカ・インターナショナルが20年前から取り組んでいるマングローブ林の視察を行いました。
▲マングローブ植林風景
学生たちが植えたマングローブの本数は多くないかもしれませんが、10数年以上かけてそれらが親木となって種子を落とす、育ったマングローブが互いに根を絡ませていく中で豊かな生態系の確保と海岸線の浸食防止に寄与するという気持ちを込めて植林に取り組みました。
▲マングローブ植林現場にて
▲この日植えたマングローブが20年後には大きなマングローブ林に変わります。
有機農業施設では、有機肥料作成現場の視察を行いました。オイスカ・インターナショナルは近隣の市場から廃棄される野菜からコンポストを作成し、その手法を現地の農民に指導しています。オイスカ・インターナショナルは植物性の廃棄物100%から作成する腐敗臭がまったくしない完全発酵のコンポストでした。このコンポストの完成度には、農業を専攻している日本の学生も感嘆の声が上がっていました。
▲コンポスト作成現場を視察しました
オイスカは、フィジー国内の学校を早期退学した青少年たちに対して、コンポスト作成を含めた有機農業技術の指導を通した就労支援にも取り組んでおり、フィジーにおいて、多面的に活動しているNGOの取り組みを学んできました。
▲オイスカの皆さんと一緒に
フィジー派遣も終盤に差し掛かった5日目はナンディ市近郊のデナラウマリーナから高速艇に乗船し、エコツーリズムに取り組んでいるマナ島を訪問しました。
マナ島では島内で使用する生活水を日本製の淡水化プラントも用いて、海水から淡水化し、また、島内で発生した生活排水はすべて浄水システム(こちらも日本製)でろ過し、島外には一切排出しないエコツーリズムを実践していました。淡水化プラントと浄化システムが必要とする出力は島内の発電機で生成した発電量の多数を消費するとのことでした。マナ島では太陽光発電の導入を検討した時期もありましたが、島内すべてにソーラーパネルを覆っても島内で必要とする電力を賄うことができないと算出されたため、断念しましたと説明を受け、エコツーリズムと再生可能エネルギーの課題点も学ぶ機会となりました。
▲淡水化システムの水を試飲
▲島内の浄化システムを視察
偶然にもマナ島にはJENESYS2022招へい事業で三重県に訪問したことのあるJEENSYS同窓生が働いていました。招へい同窓生と派遣学生の島内で食用に利用されるハーブとココヤシ植林のコラボレーションが実現しました。
▲JENESYS派遣と招へい同窓生のコラボ植林が実現
同じくマナ島ではサンゴ養殖を体験しました。2020年初頭に始まった世界的な新型コロナウィルス感染拡大に伴い、フィジーは2021年まで国境を封鎖していました。国境封鎖期間中、海外からのフィジー渡航者が限定され、観光産業は大打撃を受けました。他方、この国境封鎖による観光客の激減はダイバーや船舶往来が最小化されたため、サンゴの成長が非常に促進されたとの現状説明を受けました。
▲サンゴ養殖セミナー
学生たちはサンゴが成長する突起部分を触らないよう丁寧に養殖用のロープに結び付ける養殖活動を行いました。サンゴが結ばれたロープは、マナ島桟橋近くの海に結び付けられました。
▲サンゴ養殖風景
▲結び付けたサンゴを海に移しました。
マナ島での活動はまだまだ続きます。サンゴ養殖を完了した後は、ココヤシの葉を使ったフィジーの伝統工芸品うちわ、かばん、帽子の作成に挑戦しました。現地の人は、葉のサイズから完成品の大きさを想定して、イメージする工芸品を作り出すこと、ココヤシの葉の状態から少しずつ形が見えてくることに大いに驚かされました。約1時間かけて、全員、それぞれが選んだ、工芸品を完成することができました。(フィジー人のガイドさんは10分でかばんを完成させていました)
▲ココヤシの葉を使った伝統工芸制作に悪戦苦闘中
▲無事、完成してにっこり
離島する際、マナ島でエコツーリズム環境学習修了の証明書を頂きました。
▲マナ島のみなさん、ありがとうございました。
マングローブ植林やサンゴ養殖などの体験を通して、現地の人々が環境問題にどう対処しようとしているのかを実際に目の当たりにしました。現地の人から「私たちはこのように環境問題の悪影響を少しでも軽減しようと努力しているが、この方法によってすぐに得られる成果は本当に小さなもので、あなたたちがこの経験を日本に持ち帰り発信してくれることで、他の国からの理解や協力を得られることを期待している。」と伝えられました。
実際にその悪影響を日々感じている同世代の人々の言葉は何よりも重みがあり、環境問題について他人事としてではなく、実際に現地を赴き直接その現状を目にした者としてこれから向き合えるようなとても貴重な機会となりました。
プログラム最終日となった6日目は、朝にホームビジットプログラムとして、ナンディ市郊外にあるNawaka村を訪問しました。入村する際には、セブセブの儀式が行われ、学生代表がグループのチーフとして儀式に臨みました。
▲学生代表(チーフ)にカバがもてなされました。
セブセブの儀式が終わったのち、村内を案内され、村長宅、村内の教会そして、村人のご厚意で一般家庭の中も視察できました。
▲ビレッジミーティングの際、鳴らされる半鐘を視察
村内を視察した後、村の若者たちからダンスが披露されました。ダンスを披露してくれた村の若者たちが顔に塗っていた塗料を聞いたところ、墨でできた顔料であることを教えてもらい、その顔料を体験させてくれました。
▲村の若者による圧巻のダンス
▲フィジーの顔料を体験
▲フィジアンメイクアップ完了
訪問した日は村の男性たちのほとんどは仕事で外出していたため、迎え入れてきた村人は女性と青年でした。JICA海外協力隊員が活動に取り組んでいるNaira村にも訪問しましたが、学生たちから「村ごとに全く別の性格をみせることがはっきりと見てとれ、フィジーにおける村という共同体の役割の大きさを感じた。」と同じ国の中にも文化や風習の多様性を体験しました。
午後からPacific Recycling Foundation(PRF)のフィジーにおけるWaste pickerと呼ばれる人たちが晒されている現状とその課題克服のためのPRFの取り組みに関する講話を受けました。
フィジーではWaste Pickerと呼ばれる人々がごみの埋め立て場に立ち入り、再生可能な廃棄物(Recyclables)を回収するCollection Pillars of Recyclables(CPR)という職業が確立し、同じ職業内に置いても男女間で不当に差別されていることを説明された。PRFはこの課題克服に向けて、学校や地域を巻き込んだ啓発活動に取り組んでいました。取り組みによって、Waste Pickerの家族が学校に通うことができるようになったり、収入向上などの生活改善が進んでいたりすることを学びました。JICAフィジー事務所やオイスカでも廃棄物の取り組みを学びましたが、PRFからはフィジーが抱える違った側面からの廃棄物環境問題の課題とその克服に向けた取り組みが共有されました。
▲Pacific Recycling Foundationの講話
いよいよ、フィジー派遣の成果を発表する報告会です。
日本からオンラインで接続し、フィジー国内からは訪問先でお世話になったJICAフィジー事務所、南太平洋大学からオンラインでご参列頂きました。
報告会準備に向けて非常に限られた時間内でしたが、学生たちは報告会のため、課題別にグループを再編成し、フィジーで見聞き体験したことを基に各課題を定めて、帰国後、どのようにフィジーで得た知見に対して取り組んでいくかアクションプランとして発表しました。
▲報告会発表の様子
報告で学生全員に共通していたことは、フィジーで出会った人たちへの感謝の気持ちと彼らとの繋がりを大切にして、今後、様々な媒体を使って継続的にコミュニケーションを取り、発信していくことでした。
▲報告会を終えた1枚。みんなホッとしています。
▲フィジー最後の夕食。報告会の緊張から解き放たれ、笑顔が戻りました。
7日目は、フィジーでのプログラムを終え、いよいよ日本に帰国です。
▲全日程同行して頂いたフィジー添乗員さんに御礼
▲フィジー出発
▲成田到着
限られた期間で事業目的を達成するために過密なスケジュールでしたが、JENESYS派遣学生を受け入れて頂いた在フィジー日本大使館、JICAフィジー事務所、南太平洋大学とその学生の皆さん、オイスカ、マナ島、Pacific Recycling Foundation、その他訪問の皆さんに支えられ、フィジーをはじめとした太平洋島しょ国と日本の関係とその社会文化風習を存分に体験できたプログラムになりました。日本から派遣された学生たちも受け入れて下さった皆さんの期待に応えるべく、その五感を存分に使って文化や自然、風習を体験することができました。
JENESYS2022フェーズ2派遣事業ではフィジーでの体験に加え、学生の皆さんからENESYS派遣者が利用できるオンラインプラットフォーム化やJENESYS招へい学生との連携など、JENESYSプログラムの大きな発展に資するアイデアがありました。
青年海外協力協会は、JENESYSを通して交流した人々の絆を大切にし、日本と太平洋島しょ国、オセアニア地域の相互理解の促進、相互交流を深めて、事業を持続的に発展に尽力していきます。